全身性エリテマトーデス患者さんに免疫抑制薬が効きにくい理由

核酸(DNA)に対する自己免疫疾患(膠原病)と考えられている全身性エリテマトーデス(SLE)の治療には、通常の自己免疫疾患の場合よりはるかに高用量の免疫抑制薬グルココルチコイドの投与が必要となります。

核酸自己抗原によるToll様受容体TLR7/9の活性化が、全身性エリテマトーデス(SLE)の病態の特徴である全身性の炎症反応を誘発すると同時にグルココルチコイド感受性を低下させていることがわかったと報告されました(Nature(2010; 465: 937-941))。

SLEは全身の臓器に炎症が起こる自己免疫疾患の一種で、約半数の患者の頬から鼻にかけて認められる蝶形の丘疹状紅斑(エリテマ)が特徴的所見です。すでにSLE患者さんでは形質細胞様樹状細胞(PDC)表面のTLR7/9が自己核酸を含む免疫複合体を認識しており、その刺激を受けてインターフェロン(IFN)-αが誘発されることを明らかにされています(J Exp Med2005; 202: 1131-1139)。

このIFN-α産生に至るPDC内のシグナル伝達メカニズムは複雑で、インターフェロン制御因子(IRF)を介した経路とNF-κBを介した経路などが考えられていますが、少なくとも後者の経路とはなんらかの関係があることが判明しています(Nature2006; 440: 949-953)。

一方、SLEの対症療法には他の自己免疫疾患(膠原病)と同じく、古くから免疫抑制薬としてグルココルチコイドが用いられてきましたが、SLEの治療には一般的な自己免疫疾患(膠原病)における用量の数倍から数十倍ものグルココルチコイドを投与する必要があり、これが結果として強い副作用を引き起こします。

SLEでのみこのようにグルココルチコイド感受性が低くなる理由は未解明のままでしたが、グルココルチコイドの抗炎症作用は主としてNF-κB経路の阻害作用に よってもたらされていると考えられており、この作用とSLE患者のPDCにおけるNF-κB経路活性化との関連性も指摘されていました。

今回の研究において、グルココルチコイドがSLE患者さんにおいても多くの病態重篤度指標(SLEDAI)を改善できるのにもかかわらず、血中IFN-α濃度だけは低下しないことを発見しました。

さらに詳細に検討した結果、この低反応性は、通常ならグルココルチコイドによって誘導される PDCの細胞死がSLE患者のPDCでは誘導されないため、PDCがIFN-αを産生し続けた結果であることがわかりました。

グルココルチコイドが誘導する細胞死を抑制している因子を調べたところ、インフルエンザウイルス由来核酸抗原(FLU)や合成核酸抗原(CpG-ISS)などのTLR7/9刺激物質や、さらにはSLE患者さんからの免疫複合体によるTLR7/9を介した刺激などが細胞死抑制に関与していることを確認しました。

これは正常マウスやSLE病態モデルマウスを使ったin vivo試験でも裏づけられました。そして、TLR7/9が刺激された後の数々のシグナル伝達経路のうち何がこの細胞死の抑制に関与しているのかを、さまざまなシグナル伝達経路特異的阻害薬を用いて調べたところ、唯一それに関与しているのがNF-κB経路であることがわかりました。

以上の結果から、SLE患者さんでは自己核酸抗原によるTLR7/9を介したシグナルがNF-κB経路を大きく活性化させているため、この経路を作用標的とするグルココルチコイドを投与しても経路活性を十分に阻害できず、PDCの細胞死を誘導できないのだと結論付けています。

また、今回研究におけるもう1つの重要な発見は、IRS954と呼ばれる配列を持つ18塩基の合成核酸が、TLR7/9刺激によるIFN-α産生 の抑制とSLE患者におけるグルココルチコイド低感受性の解除という2つの作用を併せ持つことが見出されたことです。この合成核 酸をTLR7/9シグナル伝達阻害薬として用いることで、ステロイド薬の減薬が可能になるなど、将来のSLE治療に新たな可能性を示唆しています。


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