<インフルエンザ医学最新ニュース6>
シンガポールでは、09年5月末に最初の2009 H1N1インフルエンザ感染者が見つかっています。6月の後半に流行が始まり、ピークは8月初めにやってきましたが、1カ月経たぬうちに流行は縮小しました。
新型インフルエンザ(2009 H1N1)の感染者の一部は、何ら症状を示さない (不顕性感染する)ことが明らかになっています。そのため、感染率をより正確に知るためには血清学的調査をしなければなりません。
そこで、シンガポールTan Tock Seng病院のMark I. C. Chen氏らは、2009年10月までの2009 H1N1インフルエンザ血清転換者の割合を調べるため、コホート研究を行い、一般成人の血清転換率は 13.5%にとどまることを明らかにしました(JAMA誌2010年4月14日号)。
この血清転換率というのは、H1N1インフルエンザウイルスに対する抗体を測定したものです。 一般成人の血清転換率は 13.5%ということは、大多数がH1N1インフルエンザウイルスに対する抗体を持ち合わせていないということです。
これはH1N1インフルエンザウイルスの2回目の流行が起こったときに、ほとんどの人がまた最初から抗体を体内で作ることを意味しますが、症状が出るかどうかは個人の反応性によると思います。この値を指標にして、ワクチン接種奨励の目安としたいのでしょうが、不顕性感染が多いという事実からもワクチンの必要性には疑問がつくところです。
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→著者ら は、以下の4コホートを対象に、流行前(保管されていた血清または流行が広まる前に採取された血清)、流行の最中(流行のピークから4週後頃に採取された 血清、8月19日から9月3日の間に採取)、流行後(流行が縮小してから4週後頃に採集された血清、9月29日から10月15日の間に採取)の標本を得 て、赤血球凝集阻害(HI)試験を行った。ベースラインに比べHI力価が4倍以上上昇したケースを血清転換ありと判断した。
(1)一般 集団(シンガポールコホート研究コンソーシアムに登録されている多民族コホートから選出した、21〜75歳の健康な一般市民)838人(平均年齢43 歳)、(2)兵士1213人(平均年齢22歳)、(3)急性期病院(Tan Tock Seng病院)のスタッフ558人(平均年齢34歳)、(4)長期介護施設2カ所のスタッフと入所者300人(入所者が全体の54%、平均年齢56歳)。
男女比や過去に季節性インフルエンザワクチンの接種を受けたことがある人の割合は、コホート間で大きく異なっていた。
質問票を用いて、 呼吸器症状、頭痛、筋痛、発熱といったインフルエンザ関連症状に関する情報も収集した。一般市民には2週間に1回電話で調査を行い、その他のコホートにつ いては採血時に調査を実施した。
ベースラインの幾何平均力価(GMT)は、一般市民が5.8(95%信頼区間5.6-6.0)、兵士が 7.4(7.1-7.7)、急性期病院のスタッフが7.6(7.2-8.1)、長期介護施設の人々は6.4(6.0-6.9)で、一般市民と他の3コホー トの力価の間の差は有意だった。
その後1回以上標本採取が行われた人の中で血清転換が確認されたのは、一般人の98人(13.5%、 11.2-16.2%)、兵士の312人(29.4%、26.8-32.2%)、急性期病院のスタッフ35人(6.5%、4.7-8.9%)、長期介護施 設の人々では3人(1.2%、0.4-3.5%)だった。
多くの場合、血清転換は2回目(流行の最中)の採血で確認された。例えば一般市民では血清転換者の71%が2回目の時点で陽性と判定された。
一般市民においては、家庭内に血清転換を起こした家族がいた場合に血清転換する頻度が高かった(血清転換の調整オッズ比は3.32、 1.50-7.33)。一方、高齢者の血清転換率は低かった(年齢が10歳上昇当たり0.77、0.64-0.93)。
なお、ベースラインでHI力価が40倍以上を示した人が、一般市民に22人(2.6%、95%信頼区間1.7-3.9%)、兵士に114人(9.4%、 7.9-11.2%)、急性期病院のスタッフは37人(6.6%、4.8-9.0%)、長期介護施設の人々の中には20人(6.7%、 4.4-10.1%)いた。
ベースラインで力価が高かった人々は血清転換しにくかった。ベースラインの力価倍化あたりの調整オッズ比は 一般市民が0.48(0.27-0.85)、兵士は0.71(0.61-0.81)、急性期病院のスタッフは0.50(0.26-0.93)となった。
調査期間中に急性呼吸器症状や発熱性呼吸器疾患を経験した人の割合は、4つのコホートの全てにおいて、血清転換ありグループの方が有意に高かった。