<インフルエンザ医学最新ニュース41>
次世代インフルエンザワクチン開発に7つの壁
米国ミネソタ大学の感染症研究対策センター(CIDRAP)のグループは2009年から3年にわたり,1936〜2012年のインフルエンザワクチンに関する論文や政策資料など1万2,000件以上の文献をレビューした他,インフルエンザワクチンの研究開発や政策立案に関わる88人の専門家へのインタビューや複数の専門家らによる会議を実施し、パンデミックに備えた次世代ワクチンの開発が進まないことに危機感を示すレポートを公表しました。
以下に要約いたします。
注射型3価不活化ワクチン(TIV)
- 18〜64歳の健康成人のおよそ59%に防御効果がある
- 2〜17歳の小児における防御効果のエビデンスは一貫していない
- 65歳以上の高齢者における予防効果のエビデンスは一貫していない
経鼻投与型の弱毒生ワクチン(LAIV)
- 生後6カ月〜7歳の小児の83%に防御効果が見られる
- 60歳以上の高齢者における防御効果のエビデンスは一貫していない
- 8〜59歳の個人における防御効果のエビデンスはない
- この数値をもって現在のインフルエンザワクチンが有効であると認識されている一方,
- 現在,定期接種プログラムに推奨されている多くのワクチンに比べ,現在のインフルエンザワクチンの防御効果は低い上,接種対象が最適化されていない
- さらに,この30年間,米国では予防接種諮問委員会(ACIP)がインフルエンザワクチンの接種対象を拡大してきたことに対し,必ずしも科学的知見に基づいておらず,専門家としての判断が優先された場合もあった。
- 現在世界では170件以上ものインフルエンザワクチンに関する臨床試験が進行しているが,そのほとんどは現行のウイルス表面の抗原(ヘマグルチニン:HA)の頭部をターゲットとしたワクチンの改良版を用いたものだという。その一方で,HAの柄の部分やウイルス内部の核蛋白(NP)など,全ての株に共通して保存されている部分をターゲットとした「次世代ワクチン」の開発も進んでいる。次世代ワクチンはHA抗原の変異に伴う「当たり外れ」が少ないとされており,パンデミック発生時などのユニバーサルワクチンとして期待が集まっている。
- しかし,米国におけるインフルエンザワクチンの治験や評価の制度が従来のワクチンに基づいてつくられており,投与経路やワクチンの内容が大きく異なる場合の評価体系が当局,そして企業でも整えられていないとしている。
- さらには従来のワクチン同様,開発から上市までに長い年月と莫大な費用を必要である他,実用化に伴うインセンティブが少なく,資金面のリスクが存在することも指摘。
- こうした複合的な要素はさらに現行ワクチンの需給安定を守ろうとするあまり,企業が次世代ワクチンの開発に前向きになりにくい状況につながっている。
なお,今回のレポート作成の資金はAlfred P. Sloan財団から提供を受け,開示すべき利益相反情報はないと記されています。