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パンデミックインフルエンザウイルスH5N1ウイルスと遺伝子再集合の可能性

東京大学医科学研究所感染症国際研究センターの調査によると、2009年パンデミック豚インフルエンザウイルス(H1N1)は、成人が感染してもその多くが不顕性感染だったことが明らかになっています。

厚生労働省新型インフルエンザウイルス対策推進本部がまとめた週別の年齢階級別推定受診者数の推移から、受診者数の最も早いピークは10〜14歳に見られ、次のピークが15〜19歳、3番目に5〜9歳、その後に0〜4歳と20〜30歳代にピークが来ていることが分かりました。流行はまず小学校高学年から中学、高校生に広がりって、子供から親に感染していることが推測されます。学校は病院と同じく、人口密度が高いため感染の危険性が高いのです。学級閉鎖という公衆衛生予防措置は正しいことが分かります。

さて、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスは、インドネシアやエジプトで流行しており、ヒトへの感染や死亡者も出ています。日本でも養鶏所で養鶏に確認されていますが、今のところヒトへの感染は認められていません。

この高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスと2009年パンデミック豚インフルエンザウイルス(H1N1)がブタに同時感染し、新たなウイルスが生じる可能性を検証するため、同センターは次の実験を行いました。

インフルエンザウイルスの宿主細胞内での増殖に必須なM2蛋白質をコードする遺伝子を欠損させた高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスと2009年パンデミック豚インフルエンザウイルス(H1N1)を作製し、M2遺伝子を恒常的に発現させたブタの細胞に同時感染させました。

(このような手順を経たのは、2つのウイルスが実際に細胞の中でリアソータントと呼ばれる遺伝子再集合を起こし、2つのウイルスの性質を兼ね備えた新たなウイルスが生じた場合、非常に危険であるため、あらかじめ特定の細胞でしか増殖できないように予防措置を取ったためです。)

結果的に、2つのウイルスを同時感染させてできた59個のウイルスのうち、9個はH5N1ウイルスでした。したがって残りの50個はリアソータントによって生じたウイルスであり、遺伝子型を調べたところ、32種の異なるウイルスを含むことが判明しまた。同実験結果は、ヒトに伝播しやすい高病原性鳥インフルエンザウイルスがブタの中で生まれる可能性を強く示唆しています。

ちなみに米疾病管理センター(CDC)のグループがH5N1ウイルスと香港型ウイルスで同様の実験を行いましたが、今回ほど簡単にリアソータントは生じなかったようです。いずれにせよ、ウイルスは簡単に遺伝子を組み替えますので、私たちは恒常的に新たなインフルエンザ抗原ウイルスに暴露する可能性があるのです。

その中で大流行する株を特定し、予防することの意義は子供やと高齢者ではあるのかも知れません。

成人感染者の大半が不顕性感染

一昨年から昨年にかけての2009pdmウイルスの広がり方について、河岡センター長らは、2回の学級閉鎖を行った東京都内の某小学校の感染状況を基に検討を行った。

流行のピークの少し後である2009年11月21日と、流行が終わりかけた2010年1月30日に、同校の学童とその親族(17歳以上)の血清を採取して抗体検査を実施したところ、最初の検査では学童の約半数弱に中和抗体が認められ、その大半が有症状だった。一方、その家族の抗体陽性率は11%弱にとどまり、その大部分は症状がなかった。

第2回目の抗体検査では、学童の84%が感染しており、その大部分が有症状であることが分かった。その家族の感染率は35.7%だったが、症状があったことを記憶している人は皆無であり、ほとんどが不顕性感染であることが判明した。

また、上記の集団と関係のない成人集団を対象に、2009年12月22日と2010年1月23〜30日の2回血清採取を行ったところ、抗体陽性は21.4%だったが、有症状の人はいなかった。この結果から、2009年のパンデミックでは、成人は感染してもその多くが不顕性感染だったことが明らかになった。

一方、厚生労働省新型インフルエンザウイルス対策推進本部がまとめた週別の年齢階級別推定受診者数の推移から、受診者数の最も早いピークは10〜14歳に見られ、次のピークが15〜19歳、3番目に5〜9歳、その後に0〜4歳と20〜30歳代にピークが来ていることが分かった。流行はまず小学校高学年から中学、高校生に広がり、次いで小学校低学年からその弟あるいは妹に、さらに親へと広がった、と同センター長は推測している。

季節性ウイルスの1,000倍以上の増殖力

河岡センター長らは2009pdmウイルスの性質を調べるため、さまざまな研究グループと共同で、マウス、ブタ、サルなどの感染実験を行ってきた。その一環として、滋賀医科大学グループとの共同研究により、サルの感染実験を実施した。

2009pdmウイルスと季節性ウイルス(H1N1)をそれぞれ3頭のサルに感染させ、各臓器でのウイルス増殖を見たところ、いずれも上気道で増えていたが、増殖の程度は2009pdmウイルスの方が顕著だった。両者の違いは肺でよりいっそう明らかで、2009pdmウイルスは季節性ウイルスの1,000倍以上の増殖を示した。

肺の病理学的検討では、季節性ウイルスを感染させたサルの肺胞壁はいずれも正常肺胞壁より肥厚していたが、それほど強い病変ではなく、ウイルス抗原陽性細胞はほとんど認められず、季節性ウイルスが肺ではほとんど増えないことが確認された。しかし、2009pdmウイルスを感染させたサルの肺胞では、多数の抗原陽性細胞と炎症性細胞の浸潤が見られた。

2009pdmウイルスの流行が始まった当初のメキシコからの報告は、重症例や死亡例のほとんどは細菌性肺炎ではなく、ウイルス性肺炎によるものと報告された。同センター長は「われわれの実験結果は、2009pdmウイルスが肺で増えやすい性質を持ち、重篤な患者の多くがウイルス性肺炎を起こしたことをよく説明する結果となった」と述べた。

有効だった公衆衛生対策

今回のパンデミックでは、米国は基本的にほとんど公衆衛生対策を行なわず、その結果、感染が拡大したことはよく知られている。対照的にわが国では学校閉鎖、学級閉鎖、イベントの中止などの公衆衛生対策を積極的に実施したことで感染事例が減ったとされ、世界的に注目を集めた。

このような日本の対策が感染拡大の阻止に本当に有効だったかどうかに関連して、国立感染症研究所からの検討結果が紹介された。それによると、2009年5月に大阪、堺、神戸など関西地区で流行した2009pdmウイルスがその後どうなったかを調査した結果、その大半がその後消失していること、それ以降に各地で分離されたウイルスは、別途に海外から持ち込まれたウイルスの流行によることが明らかにされている。したがって、わが国の公衆衛生学的な対策は、ウイルス学的にも有効であったことが示唆された。

オセルタミビル耐性ウイルスの伝播を懸念

一方、河岡センター長は、今後オセルタミビル耐性2009pdmウイルスの伝播が懸念される点を指摘した。

昨年、オセルタミビル耐性2009pdmウイルスは世界各地から分離が報告され、わが国でも耐性ウイルス分離が報告された。同センター長らは、今後オセルタミビル耐性2009pdmウイルス拡大の可能性があるかどうかを検証するため、以下の実験を行った。

大阪あるいはベトナムで分離されたオセルタミビル感受性、あるいは耐性の2009pdmウイルス2ペアをフェレットに感染させ、その翌日に未感染のフェレットを入れたケージをそれぞれの感染フェレットのケージの隣に感染フェレットと直接接触しないように置いた。

その結果、すべての未感染フェレットの鼻洗浄液中からウイルスが分離された。時間的には、大阪のオセルタミビル感受性ウイルスの伝播の方がオセルタミビル耐性ウイルスの伝播より若干早かったが、ベトナムのオセルタミビル感受性ウイルスと同等の伝播力を有していた。以上の結果から、2009pdmオセルタミビル耐性ウイルスが飛沫感染によって伝播しうることが分かった。

H5N1ウイルスと遺伝子交雑しやすい

ところで、一昨年のパンデミックが起こる以前にその動向が注目されていたH5N1ウイルスに対する関心は、2009pdmウイルスの出現で大きく後退した観がある。しかし、河岡センター長は「H5N1ウイルスは依然としてインドネシアやエジプトで流行しており、ヒトへの感染や死亡者も跡を絶たない」と指摘。同センターで2005〜09年にインドネシアにおけるブタのH5N1ウイルス感染状況を調べたところ、14の郡で23の農場と屠畜場のブタから収集した702サンプル中52サンプル(7.4%)から、H5N1ウイルスが分離された。

2009pdmウイルスは、もともとブタのウイルスだったものがヒトに伝播したと考えられている。では、H5N1ウイルスと2009pdmウイルスがブタに同時感染し、新たなウイルスが生じる可能性はあるか。このことを検証するため、同センター長らは次の実験を行った。

インフルエンザウイルスの宿主細胞内での増殖に必須なM2蛋白質をコードする遺伝子を欠損させたH5N1ウイルスと2009pdmウイルスを作製し、M2遺伝子を恒常的に発現させたブタの細胞に同時感染させた。このような手順を経たのは、2つのウイルスが実際に細胞の中でリアソータントと呼ばれる遺伝子再集合を起こし、2つのウイルスの性質を兼ね備えた新たなウイルスが生じた場合、非常に危険であるため、あらかじめ特定の細胞でしか増殖できないように予防措置を取ったためである。

結果的に、2つのウイルスを同時感染させてできた59個のウイルスのうち、9個はH5N1ウイルスだった。したがって残りの50個はリアソータントによって生じたウイルスであり、遺伝子型を調べたところ、32種の異なるウイルスを含むことが判明した。同センター長は「実験結果は、ヒトに伝播しやすい高病原性鳥インフルエンザウイルスがブタの中で生まれる可能性を強く示唆している。以前、われわれや米疾病管理センター(CDC)のグループがH5N1ウイルスと香港型ウイルスで同様の実験を行ったが、今回ほど簡単にリアソータントは生じなかった。今回の実験結果で示唆された可能性を、今後注意深く見ていく必要がある」と述べた。

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