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全身性エリテマトーデスの発症機序および新たな治療薬の研究

New England Journal of Medicine(2008; 358: 929-939)に全身性エリテマトーデス(SLE)の発症機序とその治療法の総説が掲載されました。

全身性エリテマトーデス(SLE)発症には遺伝的要因と疫学的要因が関与しますが、その多くはいまだに不明とされています。全身性エリテマトーデス(SLE)患者さんの90%が女性であることから、ホルモン分泌が関与している可能性も指摘されている。

環境因子では、薬剤誘発性ループスの存在、SLE発症時や再燃直前にウイルス性疾患様の症状が現れること、紫外線への曝露がSLEと関連する環境要因の1つであることが分かっています。

双生児を対象とした研究が示すように、遺伝的要因もSLEと関連するが、発症するにはそれのみでは不十分であると現代医学でも認めています。これまでの遺伝学的研究では、SLEに 関連する8つの感受性遺伝子座が特定されていて、免疫系の構成要素をコードする遺伝子がSLEで重要な役割を果たすことがわかっています。

(初期段階の補体成分やインターフェロン(IFN)関連遺伝子と関係する遺伝子が同定されている。核内自己抗原に対する免疫寛容の欠如、B細胞の活性亢進、T細胞の制御異常などを誘導する遺伝子も重要となる。)

全身性エリテマトーデス(SLE)の症状は、皮疹、関節炎、貧血、血小板減少、漿膜炎、腎炎、痙攣、精神障害など他臓器に及びます。

SLEでの組織損傷のおもな原因は、病原性の自己抗体(抗二本鎖DNA抗体が特異的です)です。感染やガン化などで細胞を自殺させて排除する機構をアポトーシスといいます。全身性エリテマトーデス(SLE)では、アポトーシスにより放出される細胞破片(タンパク質)が適切に処理できないためにそれに対する抗体ができるようになります(抗ヌクレオソーム抗体)。

このような自己抗体が各臓器にできるために全身性エリテマトーデス(SLE)の多彩な症状が出現します。具体的に説明していきましょう。

中枢神経ループスでは、 N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に対する抗体ができます。NMDAは、ニューロンが放出する興奮性アミノ酸です。 このアミノ酸が伝えられないために精神障害が出現します(ただし、全身性エリテマトーデス(SLE)のステロイド高用量治療の副作用でも精神障害が出現します)。

皮膚ループスでは、抗リボ核酸蛋白質複合体(Ro)抗体や抗ヌクレオソーム抗体が関与しています。

ループス腎炎での自己抗体による組織損傷に関する仮説は、おもに2つあります。 1つ目の仮説は「全身性エリテマトーデス(SLE)では抗二本鎖DNA抗体が血中に放出されたヌクレオソームと結合し、この抗体・ヌクレオソーム複合体が腎臓の糸球体基底膜に定着する」というものです。免疫複合体は補体を活性化し、活性化した補体は糸球体腎炎を引き起こします。ヌクレオソームは、アポトーシス後に放出される染色体の断片で、細胞外の二本鎖DNAは、おもにヌクレオソームの形で存在しています。

2つ目の仮説は「抗二本鎖DNA抗体や抗ヌクレオソーム抗体は、腎臓の蛋白質と交叉反応するため、腎細胞に対する直接的な病原性を持つ」とするものです。

全身性エリテマトーデス(SLE)では、サイトカインの血清インターロイキン(IL)-10レベルが常に高く、そのレベルは疾患活動性と相関するとされています。活動性SLE患者では、血清IFN-αも上昇します。腫瘍壊死因子(TNF)-αの関与については意見が分かれています。

以上の全身性エリテマトーデス(SLE)の病態より、従来のステロイド治療以外にリツキシマブ、abetimus sodium、抗CD22モノクローナル抗体、抗Bリンパ球刺激因子、抗CD40リガンド、CTLA-4-Ig、病原性抗DNA抗体に由来するペプチド、 抗TNF-α抗体、抗IL-10抗体など、複数のSLE治療薬が研究・試験されています。

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