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４０．血中フタル酸濃度がインスリン分泌低下やインスリン抵抗性と関連
衣服，化粧品，容器などの日用品のほか，チューブや点滴バッグなどの医療器具や医薬品にも広く使われる化学物質フタル酸（フタル酸ジエステル類）への曝露による健康被害が懸念されています。これは拙著『医療ビジネスの闇』（学研）でも取り上げました。
今回、スウェーデン・ウプサラ大学職業環境医学科は，血中フタル酸代謝物濃度と2型糖尿病発症との関連について検討するため，同地域在住の高齢者を対象に研究を実施しました。その結果，フタル酸濃度は2型糖尿病の発症およびインスリン分泌の低下，インスリン抵抗性と関連していたことが論文報告されました（Diabetes Care 2012年4月12日オンライン版）。
今回の結果により数種類のフタル酸では2型糖尿病発症との関連に加え，インスリン分泌の低下およびインスリン抵抗性との関連が確認されたと結論。日常的に人体に触れる機会の多いフタル酸について，特に高齢者では曝露レベルによる糖代謝機能への悪影響の可能性があると警告されています。
殆どの脊椎動物において発現している核内受容体の一種にペルオキシソーム増殖因子活性化受容体（PPAR）があります。ペルオキシソームはほぼ全ての真核細胞が持つ細胞小器官で、多様な物質の酸化反応を行っています。
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体（PPAR）は、細胞内のペルオキシゾームの増生を誘導するレセプターとして脂肪酸のβ酸化を活性化したり，脂肪細胞の分化を促進して脂肪蓄積を促進する活性をもつ受容体です。実はフタル酸がペルオキシソーム増殖因子活性化受容体（PPAR）のリガンド（結合体）なのです（Environ Health 2008; 7: 27，Environ Health Perspect 2007; 115: A443）。したがって、フタル酸暴露で脂肪蓄積が促進され、糖尿病やメタボリックシンドロームを起こす危険性が高まるのです。医療行為で使用される器具で病気になるとは、まさに文明病といえるでしょう。
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→対象者は，2001～04年にスウェーデン・ウプサラ地域に在住の70歳の男女からランダムに抽出した1,016人。午前0時以降の服薬および飲食を厳禁とし，翌朝の空腹時血糖（FPG）を検査したほか，既往歴，喫煙歴，身体活動習慣，服薬などを調査。
糖尿病については，血糖降下薬服用者またはFPG126mg/dL超の者としたところ，119例おり，うち88例が血糖降下薬服用者で，平均罹病期間は8.9年であった。
血中フタル酸濃度については，採取した血清0.5ｍLをアイソトープ液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法により濃度別に分類。0.2ng/mL以上の検出が可能であった，フタル酸モノ-2-エチルヘキシル（MEHP），フタル酸モノエチル（MEP），フタル酸モノイソブチル（MiBP），フタル酸モノメチル（MMP）の4種類を解析対象とした。
血中フタル酸濃度別に五分位に分類し，最低五分位群を対照に2型糖尿病発症のORを求めた結果，MEP，MiBP，MMPの最高五分位群で糖尿病の発症リスクが2～2.54倍有意に高まることが認められた（順にP＝0.031，0.040，0.010）。
また，4種類のフタル酸について，インスリン分泌低下の指標であるプロインスリン/インスリン比およびインスリン抵抗性の指数（HOMA-IR）との関連を検討した。その結果，プロインスリン/インスリン比はMEHPおよびMiBP（いずれもP＜0.001），HOMA-IRはMEPおよびMMP（順にP＝0.004，0.002）でそれぞれ正の相関が示された。