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２３．福島第1原発事故の短・長期的健康リスクについて
今年の４月ですから少し前になりますが、福島第1原子力発電所の事故による放射線障害に関する論文が発表されていましたので、ご紹介いたします（N Engl J Med. 2011 Jun 16;364(24):2334-41. Epub 2011 Apr 20.）。この論文で今回の原発事故の短・長期的なリスクを検討しています。
米ペンシルベニア大学のJohn P. Christodouleas氏，国際原子力機関（IAEA）と世界保健機関（WHO）に集積されている1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故と，1986年にソ連（現ウクライナ）で起きたチェルノブイリ原発事故のデータを参考に，福島第1原発事故の影響を調査しました。広島や長崎に投下された原子爆弾の事例は含まれていません。これは、原発事故と原爆では放射線の種類や量などが非常に異なるため，与える影響も全く違うものになるからです。
被ばくした際に最も影響を受けるのが遺伝子DNAで，損傷を受けても修復される場合，機能障害が発生する場合，発がんする場合，細胞死に至る場合などが存在します。遺伝子だけでなく、細胞の膜、タンパク質なども障害されます。
それを左右するのが被ばく形態（体外被ばくか体内被ばくか），放射線に曝露した体組織の種類，放射線の種類（β波やγ波など），体内への放射性物質の侵入度，総吸収線量，吸収期間などです。
スリーマイル島事故では，原発から約16km離れた場所での平均被ばく量は0.01mSv（自然被曝の1日分），原発区域内での最大被ばく量は1mSv（同3カ月分）でした。
一方，チェルノブイリ事故では計1万900PSv以上の放射性物質が放出され，1986～ 2005年の低被ばく地域で10～20mSv（同3～6年分），1986年の避難エリアで33mSv超（同11年超），1986～2005年の高被ばく地域で50mSv超（同17年超），1986～87年の原発清掃員で100mSv超（同34年超）となっている（表1）。なお，IAEAの見解では100mSv（同34年）未満では健康に影響ないとされています。これは、間違いで、100mSv未満でもガンや心臓病などの健康障害が出ることはすでに論文報告されています
同氏らは「まだ確定はしていないが，漏れ出た放射線量と健康被害に関して，福島第1原発事故は過去2つの原発事故の間に位置することになるだろう」と予測しています。
今回の論文では，原発事故で予想される短期的な影響として，急性放射線障害が挙げられています。急性放射線障害は1回に1Sv以上の放射線を浴びると発生し，血液や消化器，皮膚に影響します。チェルノブイリ事故では原発作業員および緊急対応チームの134人に急性放射線障害が認められ，全例に骨髄抑制，19例に広範囲な放射性皮膚炎，15例に重度の消化器合併症が見られています。
総被ばく量が20Svに達すれば重症急性神経血管障害が発生する可能性があるものの，チェルノブイリ事故では最大でも16Svの被ばくにとどまり，原発作業員や緊急対応チーム以外の一般集団では急性放射線障害自体が認められなかったといいます。また，スリーマイル島事故では原発作業員にも認められなかったといいます。
被ばく量ごとの死亡率は，軽度被ばく（1～2Sv）でゼロ，中等度被ばく（2～4Sv）で50％以下，重度被ばく（4～6Sv）で20～70％，超重度被ばく（6～8Sv）で50～100％となっており，致死量被ばく（＞8Sv）では100％。中等度被ばく以上では，被ばく後30分～2時間に嘔吐のほか発熱，頭痛などが見られる点が特徴で，リンパ球も被ばく量に比例して速く減少する（表2）。また皮膚症状は，3～15Svで紅斑と掻痒，15Svで水疱と潰瘍が見られます。
一方，長期的な影響として挙げられているのは，がんリスクの上昇です。Christodouleas氏らは，原爆と比べて原発事故ではこちらの方が被害者が多いことを示唆しています。チェルノブイリ事故では，主にヨウ素131とセシウム同位元素による空気，水，作物などの汚染を経て，周辺地域の約500万人が被ばくしたと推定されており，チェルノブイリ原発の近くで生活する小児を対象とした調査結果では，1Svの被曝で甲状腺がんリスクが2～3倍に上昇していました。しかし、安定ヨウ素剤を投与された小児の甲状腺がんリスクは，非投与小児の3分の1になっています。
白血病および非甲状腺がんのリスクは小さな上昇にとどまっています。この論文はIAEAつまり、石油の輸入による貿易収支の悪化を改善するため原発を推進したい現米国政府の影響下にある研究者のものです。ロシアの研究者は、IAEAが英語の論文に基づく情報のみを評価しているため、実際に重大な被害が起こったベラルーシ、ウクライナなどの健康被害（ほとんどが現地語で、英語で発表されていない）が過小評価されていると警告しています。
福島第1原子力発電所の事故による放射線障害も米国のエネルギー政策を考えると、残念ながら過小評価されることになるでしょう。アメリカの思惑（放射能漏れ事故は安全に処理できると米国民にアピールしたい）が福島の放射能除染を妨げている現実（福島が汚染されている前提でないと困る）には、植民地に暮らしている人間のひとりとして怒りがこみ上げてきます。