自然研究からの治療応用１１
腸内にバクテリアを投与しても生着しない
無菌マウスの腸内環境が、遺伝子配列の決定された15種類のヒトの腸内細菌のみになるよう慎重に飼育しました。この“ヒト化”マウスと、健常な双子の若い成人女性7組に4カ月間、市販のプロバイオティクスヨーグルトを摂取させ、摂取前後、摂取中の腸内細菌叢の組成と行動パターンを分析した結果が論文報告されました（Science Translational Medicine 10月26日号）。
研究の結果、ヨーグルトの細菌種はヒト、マウスともに新たな居住者として腸内に留まらなかったため、マウスとヒトの腸内細菌環境はヨーグルト摂取前後でほぼ同じでした。
ただし、“ヒト化”マウスの尿検査で代謝に関与する酵素活性に“有意な変化”がみられ、最も顕著な変化は炭水化物の分解に関係していたといいます。“プロバイオティクス”という用語は、一般に十分な量を摂取すれば健康の増進につながりうる細菌やウイルス、酵母などの消化可能な生きた微生物を指します。
サプリメントの製造業者は、これが免疫システムを活性化させ、“悪い細菌”から防御し、消化プロセスを助けるために疾患と闘うことに役立つとしています。今回の研究からは、プロバイオティクスによって微生物群の構造は変化しないが機能は変化する可能性が示唆されます。
しかし、微生物をそのまま人体や土壌中に入れ込むというのは典型的な２０世紀型の遅れた線形的考え方です。自然は作用―反作用の法則によって、外から強制的にほどこした方策は、往々にして逆の結果を産みます。微生物の代謝機能（代謝産物）が重要なのですから、すでに存在している腸内や土壌の有用微生物を活性化させる方に目を向けなければなりません。