米疾病対策センター（CDC）は，米国における処方鎮痛薬（特にモルヒネ系）の過剰服用による死亡者数が，過去10年間で3倍超に増加したとする解析結果が報告しました。
処方鎮痛薬の販売増に伴い，医療以外の処方鎮痛薬の使用が増加し，多くの過剰服用と死亡の要因となっているといいます。薬剤使用と健康に関する全米調査によると，2010年には，12歳以上の米国人の20人に1人（計1,200万人）が処方鎮痛薬を医療以外の目的で使用したことがあると回答しています。米連邦麻薬取締局（DEA）のデータでは，薬局と医療機関における処方鎮痛薬の売り上げは，1999年から300％超増加しています。さすがは麻薬大国ですね。
2011年4月に，米国政府は処方薬乱用の全国的拡大に対処し，この公衆衛生上の負担を軽減するための包括的行動計画を発表しています。この計画は“Epidemic: Responding to America's Prescription Drag Crisis”という名称で，州ベースの処方薬監視プログラム，家庭から不使用薬を排除するのに利便性が高く環境に配慮した廃棄方法の拡大，患者と医療提供者に対する教育などへの支援，さらに“ピルミル（大量の薬剤を処方する医師や診療所）”と“ドクターショッピング（医師や病院を信用できず，次々と転院を繰り返すこと）”の流行を抑制するための法制化支援などが含まれています。
既に48州が，患者のプライバシーを保護しながら薬剤流用とドクターショッピングを抑制するようにデザインされた州ベースの監視プログラムを導入し，その一方で，米司法省は，ピルミルとして機能している悪質なペインクリニックを数回にわたり摘発しています。また，オバマ大統領は2010年に，安全で責任を伴う薬剤廃棄に関する法案に署名した。同法の成立は，不必要な処方薬の回収と安全な廃棄に関する権限を州や地域社会に付与し，DEAが進めている不必要もしくは期限切れの処方薬回収の全国的取り組み（2010年には300トン以上の薬剤を回収）を下支えするものであるようです。
今回の調査では，処方鎮痛薬による死亡率はアフリカ系米国人やヒスパニック系白人に比べて非ヒスパニック系白人と米国先住民／アラスカ先住民で3倍高いことが分かっています。年齢別では35～54歳群で死亡率が最も高い結果でした。処方鎮痛薬の過剰服用により，65歳未満の余命83万652年分が失われていることになりますが，この数字は交通事故による推計余命損失年数に匹敵し，自殺による損失年数と比べてはるかに多いのですからアメリカがいかに薬中毒になっているのかが良く分かります。
CDCでは，今回の解析のために，薬物の致死的な過剰服用と医療以外での処方鎮痛薬の使用，薬局や医療機関における処方鎮痛薬販売に関して，州ごとのデータを集計した。その結果，2008年以降のデータで，過剰服用による州ごとの死亡率は，最も高いニューメキシコ州で10万人当たり27.0人であったのに対し，最低のネブラスカ州では5.5人でした。また，12歳以上人口における処方鎮痛薬の医療以外での使用は，最高がオクラホマ州の12人に1人，最低がネブラスカ州の30人に1人でした。1人当たりの処方鎮痛薬の購買回数は，最高のフロリダ州では最低のイリノイ州の3倍超多い結果でした。処方鎮痛薬の医療以外での使用や1人当たりの購買回数が多い州ほど，過剰服用による死亡率も高い傾向にありました。
これはアメリカという超格差社会国家が抱える社会問題であり、ＣＤＣ、ＦＤＡの小手先の政策では簡単には改善しないでしょう。
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