入院すると高齢者の認知機能低下2.4倍に加速

臨床の現場では、高齢者が入院を機に認知症が進行することがよくあります。これは病院では日常生活のように刺激が少なく、スタッフに依存的になる傾向が見られるからです。

今回、65歳以上の高齢者を対象としたコホート研究で，入院を挟んで認知機能の低下が2.4倍に加速していたことが論文報告されました（Neurology（2012; 78: 950-956）。

シカゴおよびその周辺の都市部住民を対象とした長期コホート研究の一部として，65歳以上高齢者1,870人に3年置きに3〜5回のインタビューが実施されました。簡易認知機能テスト〔エピソード記憶（即時再生・遅延再生），記号数字モダリティ検査（SDMT），Mini-Mental State Examination（MMSE）〕を行いました。入院はMedicareのデータを用いて調べています。

平均9.3年間の追跡中，71.4％が1回以上の入院を経験していた。入院経験者は，より高齢で学歴が低く，ベースラインの認知機能障害や身体障害，抑うつのレベルが高い結果でした。

全般的認知機能の複合指標スコアを算出し，混合効果モデルを用いて年齢，性，人種，教育を調整後の同スコアの変化を調べました。その結果，同スコアは入院前は平均0.031ユニット/年低下したが，入院後は0.075ユニット/年低下しており，入院を挟んで2.4倍低下速度が増加しました。

認知機能の分野別に見ても，エピソード記憶で3.3倍，実行機能で1.7倍と認知機能低下の加速が認められました。

なお，入院後の認知機能低下の速度は，登録時の認知機能レベルと関連していなかったが（r＝0.01，P＝0.88），入院前の認知機能低下と軽度の関連がありました（r＝0.55，P＝0.021）。一部の高齢者で認められた入院後の認知機能低下加速は，入院前の認知機能低下の悪化であると推測されました。

Charlson index scoreが高い，入院期間が長い，年齢が高いなどは，入院後の認知機能低下を速めていたが，これらを調整後も入院の影響は消失しませんでした。

病院という環境がいかに私たちにとって良くないかがよく分かる報告でした。

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