アルツハイマー病は感染症？米国の動物実験で示唆

アルツハイマー病もプリオン病のように感染性を示唆した研究が報告されました（Mol Psychiatry. 2011 Oct 4. doi: 10.1038/mp.2011.120）。マウスを用いた動物実験で、プリオン病と同様、自己触媒メカニズムによる異常型蛋白質の蓄積が認められたといいます。

異常型プリオン蛋白質は、経口感染により、被感染者の脳へ進入し、もともと脳内にある正常型プリオン蛋白質を次々と異常型に変えていくという、自己触媒活性があることが推測されています。

今回、アルツハイマー病患者の死後脳組織を、正常型ヒトアミロイド前駆体蛋白質遺伝子を持つマウスの脳に移植。その結果、アミロイドβ蛋白質の沈着が生じたといいます。

アミロイドβ蛋白質の沈着は移植後、経時的に増加し、時には注入された場所から離れた個所でも確認できた。これらの結果は、アルツハイマー病におけるアミロイドβ蛋白質の沈着が、プリオン病におけるプリオン蛋白質の沈着と同様の自己触媒メカニズムで生じる可能性を示唆しているといいます。

同様の移植実験でアミロイドβ蛋白質の蓄積を確認した結果は、これまでも報告されていました（Science2006; 313: 1781-1784）。しかし、従来の実験では、今回の実験で用いられた正常型ヒトアミロイド前駆体遺伝子を持つマウスではなく、遺伝性アルツハイマー病の原因遺伝子として単離された変異型ヒトアミロイド前駆体遺伝子を持つマウスが使われたという点が大きく異なるようです

変異型ヒトアミロイド前駆体遺伝子を持つマウスは、アミロイドβ蛋白質の沈着が生じ易いため、アルツハイマー病患者の脳組織移植により生じたアミロイドβ蛋白質の沈着が、移植によるものなのか、その遺伝子変異のせいなのか区別が難しかったということです。

したがって今回、外来のヒトアミロイドβ蛋白質が、内在性の正常型アミロイド蛋白質を、自己触媒的にアミロイドβ蛋白質に変化させる可能性が示されたことになり、遺伝性ではない、突発性アルツハイマー病におけるアミロイドβ蛋白質の沈着開始のメカニズムをも説明できるようになったとしています。

今回の結果により、アルツハイマー病でもプリオン病に似た、自己触媒メカニズムによる構造異常蛋白質の蓄積が生じる可能性が示唆されたわけですが、最近行われた別の研究結果によれば、変異型ヒトアミロイド前駆体遺伝子マウスでは、アミロイドβ蛋白質の腹腔内注射でも、脳におけるアミロイドβ蛋白質の沈着が認められたという（Science2010; 330: 980-982）。

もし、この結果に再現性があるならば、アルツハイマー病患者の死後脳組織に潜む未知のウイルスなどの感染病原体があることも考える必要があるでしょう。そうであれば、本当に感染によって慢性炎症を引き起こすことで脳細胞が破壊されることは合理的に説明できます。むしろプリオンでなく、ウイルスなどの感染病原体がアツルハイマー病を引き起こしている可能性が高いと考えています。

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