認知障害の発症に身体活動度が関連

高齢者の定期的な身体活動が認知機能低下の抑制に関連するという2件の研究結果が発表されました。（Archives of Internal Medicine 2011; 171: 1244-1250, 2011; 171: 1251-1257）。血管疾患または冠動脈危険因子を有する高齢女性では，身体活動が認知機能低下の抑制に関連するというものと、運動障害または認知障害のない男女高齢者では，活動エネルギー消費量が多いほど認知症の発症率オッズが低いというものです。

身体活動が多いほどエントロピーの増大法則（熱力学の第二法則）にしたがって、熱を外に放散させることができるため、生命の渦が維持できるのでしょう。身体活動が低下すると人間のあらゆる器官にエントロピー増大の力がかかり、機能が損なわれていきます。脳もそのうちのひとつであり、認知症を起こした人間が崩壊することでエントロピーを増大させるという自然の力が働くのでしょう。

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→全仏教育共済組合（MGEN）公衆衛生財団（パリ）のMarie-Noël Vercambre博士らの研究（2011; 171: 1244-1250）は，一般的な血管疾患，または3つ以上の冠動脈危険因子を有する女性を対象にしたWomen’s Antioxidant Cardiovascular Studyのデータを調べたもので，ベースライン時（1995〜96年）とその後2年ごとに被験者の身体活動度を検討した。1998〜2000年に65歳超の女性2,809例に対して，認知力，言語記憶などの検査を含む電話インタビューを行い，その後5.4年超にわたってさらに3回行った。

その結果，認知スコアの変化と歩行による総身体活動量や総エネルギー消費量との間に相関が認められた。また，被験者のエネルギー消費量が増加するにつれて，認知機能が低下する者の割合が減少することが分かった。さらに，毎日30分間の速歩に相当する身体活動が，認知障害リスク減少と関連していた。

一方，サニーブルック研究所心臓脳卒中財団脳卒中回復センター（カナダ・トロント）のLaura E. Middleton博士らの研究（2011; 171: 1251-1257）は，現在も進行中の前向きコホート研究であるHealth, Aging, and Body Composition Studyのデータを用いたものである。二重標識水（DLW）法を用いて被験者の総エネルギー消費量を測定した。DLW法は自由行動下で被験者の酸素消費量を測る方法で，代謝活動の客観的指標となる。また，総エネルギー消費量の90％からヒューマンカロリーメーターで測定した安静時エネルギー消費量を引いた値と定義される，被験者の活動エネルギー消費量（AEE）を算出した。被験者は，1998〜99年の研究開始時点で運動障害または認知障害がなかった197例（平均年齢74.8歳）。Modified Mini-Mental State Examination（3MS）を用い，ベースライン時と，2年後または5年後に被験者の認知機能を評価した。

データはベースラインの3MSスコア，人口統計学的データ，除脂肪体重，睡眠時間，自己申告による健康状態と糖尿病で調整した。その結果，AEEが最低三分位の者に比べて最高三分位の者では，認知障害の発症オッズが低い傾向にあった。また，AEEと認知障害の発症率との間に有意な用量反応性の相関が認められた。

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