認知症のうつ病治療、新タイプの抗うつ薬に効果認めず
認知症患者のうつ病発症率の高さについてはよく知られています。今回、新しいタイプの抗うつ薬であるセルトラリンおよびミルタザピンについて、抑うつ症状を呈するアルツハイマー病患者を対象にランダム化並行群間二重盲検プラセボ対照比較試験(HTA-SADD試験)を行い、効果と安全性を検討しました。その結果、いずれの薬剤も13週および39週においてうつ病尺度スコアにプラセボとの差は認められませんでした(Lancet 2011; 378: 403-411)。
漫然と抑うつ症状だからといって、反射的に抗うつ剤を投与する医師が後を絶ちません。これらの薬は効果がないばかりでなく、有害であることがありますので、投薬内容はよく確認しましょう。
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→2007年1月~09年12月に英国にある9つの高齢者精神医療施設の認知症患者から参加者を募集、2010年10月までに面接を実施。アルツハイマー病の可能性大(probableアルツハイマー病)およびアルツハイマー病の可能性あり(possibleアルツハイマー病)の患者で、4週間以上の抑うつ症状を呈し、Cornell認知症うつ病尺度(CSDD)スコアが8以上であるという条件に該当した326例を対象者とした。
対象者を、プラセボ群(111例、平均年齢79歳)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)セルトラリン投与群(107例、同80歳)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)ミルタザピン投与群(108例、同79歳)に分け、13週および39週でのCSDDスコアを測定した。投薬量は数週おきに徐々に増加、目標投与量はセルトラリン150mg/日、ミルタザピン45mg/日に設定した。
その結果、各群のベースラインと比較した13週でのCSDDスコアは、プラセボ群−5.6(標準偏差4.7)、セルトラリン投与群−3.9(同5.1)、ミルタザピン投与群−5.0(同4.9)と、すべての群において低下し、中でもプラセボ群の低下が最も大きかった。39週では、プラセボ群−4.8(同5.5)、セルトラリン投与群−4.0(同5.2)、ミルタザピン投与群−5.0(同6.1)であった。なお、39週までの同試験脱落率は、セルトラリン投与群35%(37例)、ミルタザピン投与群29%(31例)、プラセボ群24%(27例)であった。
次に、時間や治療施設で補正した混合線形回帰モデルを用いてCSDDスコアを評価した。その結果、プラセボ群と比べた同スコアの平均差は、13週ではセルトラリン投与群で1.17(標準誤差0.72,95%CI −0.23~2.58,P=0.10)、ミルタザピン投与群で0.01(それぞれ0.70,−1.37~1.38,0.99)、39週では順に0.37(それぞれ0.76,−1.12~1.87,0.62)、−0.66(それぞれ0.74,−2.12~0.79,0.37)と、有意差は認められなかった。
同様に、ミルタザピン投与群の同スコアと比べたセルトラリン投与群の平均差は、13週で1.16(それぞれ0.72,−0.25~2.57,0.11)、39週で1.04(それぞれ0.76,−0.45~2.53,0.17)と、実薬群間における有意差も確認されなかった。
また、安全性についても検討したところ、39週までに有害作用が認められたのは、プラセボ群で29例(26%)、セルトラリン投与群で46例(43%)、ミルタザピン投与群で44例(41%)であった。主な症状は、セルトラリンでは悪心、ミルタザピンでは眠気や鎮静であった。
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