人格障害を伴う認知症（前頭側頭葉型）に蛋白質の相互作用が関与

人格や行動、言語に関連する脳の領域が影響を受ける認知症の一種、前頭側頭葉変性症（FTLD）の背景機序に、プログラニュリンとソーティリンという2種類の蛋白質の相互作用が関係していることが報告されました（American Journal of Human Genetics（2010; 87: 890-897）Neuron（2010; 68: 654-667）。

前頭側頭葉変性症（FTLD）は脳の前頭葉と側頭葉の神経変性に起因する認知症の一種で、今のところ治療法はなく、アルツハイマー病（AD）など他の一般的な神経変性疾患と比べて若年発症が多いとされています。

前頭側頭葉変性症（FTLD）は、ニューロンのタウ蛋白質遺伝子の変異と、プログラニュリン遺伝子の変異を分子的特徴とする脳変性疾患の総称です。前頭側頭葉変性症（FTLD）患者の5〜10％で同遺伝子に変異が存在し、こうした変異が正常なプログラニュリン蛋白質産生の著明な低下を引き起こし、前頭側頭葉変性症（FTLD）を発症することが確認されました。

プログラニュリン遺伝子により産生される蛋白質は全身に存在するが、その機能は組織や臓器の種類により異なり、脳内ではニューロンを補助する機能を有し、その正常性の維持に働くと考えられています。

以前の研究で、血漿中のプログラニュリン濃度は簡単な血液検査により測定でき、その測定値を用いてプログラニュリン遺伝子の変異を保有する患者を同定できること、さらに同遺伝子の変異を保有しない者で血漿中のプログラニュリン濃度に大きなばらつきが見られることを明らかにしています。

今回の研究では、これらの知見を基に、対照533例の血液標本で血漿中のプログラニュリン濃度の個人差について説明可能な別の遺伝子変異が存在するか否かを検索しました。

その結果、1番染色体の同一領域で確認された2個の遺伝子変異が、血漿中のプログラニュリン濃度と非常に強い相関を示しました。この知見は、別の対照508例と前頭側頭葉変性症患者197例でも追認されました。

さらに、学術文献のレビューにより、今回、血漿中のプログラニュリン濃度との関連が認められた遺伝子変異が、ソーティリンをコードする遺伝子領域の近くに存在することが分かりました。プログラニュリンと同様、ソーティリンも全身に存在する蛋白質で、部位により機能が異なるが、脳ではニューロンの生存に重要な役割を果たしています。

次にこの2種類の蛋白質について培養細胞を用いた実験を行い、細胞内のソーティリン濃度が、細胞を出入りするプログラニュリンの量を調節していることを突き止めました。

今回の研究とエール大学の研究から、ソーティリンがプログラニュリンの調節にとって重要であることが確認されました。認知症も脳の慢性炎症により、遺伝子レベルで変化が起こるためにタンパク質の異常が起こるのです。

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