アルブミン尿は認知機能低下と関係?
微量またはマクロアルブミン尿を有する高齢者は、正常アルブミン尿の高齢者に比べて認知機能が有意に低く、その後約5年間で認知機能低下を経験するリスクが有意に高いことが論文発表されました(Arch Intern Med誌2011年1月24日号)。
腎臓の微小血管疾患(アルブミン尿がその指標となる)と、認知機能の低下をもたらす脳の微小血管疾患に見られる血管系の変化が似通っていることから、これら2疾患は同じ病因により起きている可能性を探るために今回の研究が行われました。
ONTARGET試験とTRANSCEND試験は、どちらも二重盲検の無作為化試験で、追跡期間の中央値はいずれも56カ月でした。これらの試験で収集されたデータを用いて、アルブミン尿の有無/重症度と認知機能の関係を評価しました。
登録された血管疾患または糖尿病の患者は、ベースラインと約5年目(試験終了時受診の1回前の受診時)に、MMSEを用いた認知機能の評価と、尿検査を受けていました。
MMSEのスコアは、最低が0、最高が30で、高値ほど認知機能は高い。スコア24未満は臨床的に意義のある認知機能障害と判断され、3以上のスコアの変化は臨床的に意義のある認知機能の変化とみなされます。
アルブミン排泄量については、アルブミン/クレアチニン比が、30~299mg/gを微量アルブミン尿、300mg/g以上をマクロアルブミン尿と診断しました。
両試験の登録患者のうち、必要な情報がそろっていた2万8384人(平均年齢66.5歳)を今回の分析対象にしました。
84.0%が正常アルブミン尿、12.5%が微量アルブミン尿、3.5%はマクロアルブミン尿でした。ベースラインのMMSEスコアは正常アルブミン尿者が27.8、微量アルブミン尿患者は27.2、マクロアルブミン尿患者は26.8でした。
多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、アルブミン尿とMMSEスコアの関係を調べました。
ベースラインで、正常アルブミン尿だった人々に比べ、微量またはマクロアルブミン尿患者の認知機能は有意に低かった。年齢、性別、人種、学歴、心血管疾患の既往、糖尿病と高血圧の既往、収縮期血圧、喫煙歴、BMI、推定糸球体濾過量(eGFR)、飲酒習慣、運動量、うつ、処方薬の使用で調整して求めた、MMSEスコアが24未満のオッズ比は、微量アルブミン尿患者が1.27(95%信頼区間1.12-1.45)、マクロアルブミン尿患者は1.51(1.22-1.87)でした。
約5年の追跡期間中にMMSEスコアが3ポイント以上低下した患者は、正常アルブミン尿群の11%、微量アルブミン尿群の14.5%、マクロアルブミン尿群の15.0%で、ベースラインで微量またはマクロアルブミン尿と判定されていた患者は、その後に認知機能が低下するリスクが高かった。正常アルブミン尿者と比較すると、微量アルブミン尿患者の調整オッズ比は1.23(1.08-1.39)、マクロアルブミン尿患者では1.25(0.98-1.59)でした。
ベースラインでマクロアルブミン尿だった患者のうち、ACE阻害薬を投与された人々では、偽薬投与群に比べ認知機能低下リスクが小さかったということです。テルミサルタンを投与されたグループと偽薬投与群を比較すると、認知機能低下の調整オッズ比は0.26(0.09-0.76)で、有意なリスク低下が認められた。ラミプリルと偽薬を比較した場合には、オッズ比は0.38(0.13-1.14)でリスク低下傾向が見られました。
ベースラインで微量アルブミン尿と判定された患者では、これら薬剤の使用による認知機能低下リスクの低減は示されませんでした。
追跡期間中にアルブミン尿が進行した患者には、認知機能低下リスクの段階的な上昇が見られました。約5年間正常アルブミン尿の状態を維持していた人々に比べ、正常アルブミン尿から微量アルブミン尿に進行した患者の認知機能低下の調整オッズ比は1.30(1.12-1.52)、正常アルブミン尿からマクロアルブミン尿に進行した患者では1.77(1.24-2.54)。
ベースラインで微量アルブミン尿だったが、5年後には回復して正常アルブミン尿となっていた患者と比較すると、5年後も微量アルブミン尿と判定された患者の認知機能低下のオッズ比は1.33(1.00-1.78)、マクロアルブミン尿に進行していた患者では1.57(1.07-2.32)。
ベースラインでマクロアルブミン尿と判定されたが5年後には正常アルブミン尿になっていた患者と比べると、5年後もマクロアルブミン尿だった人々の認知機能低下のオッズ比は1.50(0.65-3.50)、微量アルブミン尿になっていた患者では1.73(0.70-4.29)でした。
アルブミン尿を抑える医薬品が認知機能の低下を防止することを証明するためには、前向きの臨床テストが必要です。ベースラインのMMSEスコアにほとんど差がなかったことから、アルブミン尿と認知症の直接的関係はあまりないのではないでしょうか。
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