骨形成抑制の機序解明―骨のアンチエイジングになるか
一般に骨吸収機能が形成する能力を上回ると、骨粗鬆症など骨量の減少する疾患が引き起こされます。日本では高齢者女性中心に推計で1100万人もの骨粗鬆症患者がいるといわれています。骨粗鬆症は老化の指標でもあります。
古い骨を吸収する破骨細胞の作り出すセマフォリン4Dと呼ばれるたん白質の働きを抑えると、骨の形成が促進されることが論文報告されました(Nature Medicine (2011) doi:10.1038/nm.2489 Published online23 October 2011)。
マウスを使った実験を行い、セマフォリン4Dと呼ばれるたん白質に対する抗体を作製して投与することで、減ってしまった骨の再生に成功したといいます。この成果は、骨粗鬆症や関節リウマチ、がんによる骨量の減少する疾患に対し、骨形成促進剤の有効な候補薬剤になる可能性があると考えられています。老化による骨そしょう症で骨量が減少した場合や関節リウマチなどで骨が破壊された後は、再生医療で元に近い形に戻す以外にないと考えていましたが、このような薬剤が一定の効果を持てば、骨そしょう症で骨折を繰り返す方にとっては朗報です。
古い骨が破骨細胞に吸収され、その吸収部位を骨芽細胞が新しい骨で埋める骨リモデリングの仕組み研究のなかで、破骨細胞からセマフォリン4Dが大量に産生されることをマウスによる実験で発見。メカニズムを調べると、同たん白質が骨芽細胞上に発現するプレキシンB1という受容体に作用して活性化させ、骨芽細胞内にシグナル伝達を担うたん白質RhoA(ローエー)が活性化。ローエーの働きで骨芽細胞の分化するために必要な成長因子経路が阻まれ、同細胞の発展を抑制する結果として骨形成が抑えられてしまうことがわかったといいます。
また、骨形成には骨芽細胞が形成部位に移動する必要がありますが、ローエーの機能により破骨細胞から離れた場所に骨芽細胞を止まらせる働きも見つけ、骨形成を抑制していることもわかった。これらの研究により、破骨細胞は骨吸収する間セマフォリン4Dを産生することで、骨形成のスタートまで待機させる機能を果たしていたという。
こうした知見をもとに、骨粗鬆症モデルのマウスにセマフォリン4Dの働きを阻害させる抗セマフォリン4D抗体を投与したところ、骨形成が促進され骨量の増加が確認できたとしています。セマフォリン4Dは、これまで神経細胞が神経ネットワークを形成するために、軸索を伸ばす過程や免疫反応にかかわることが知られていた物質です。あとはこのような物質投与による副作用が許容範囲にあるのかということが臨床試験で必要となるでしょう。
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