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テロメアの機能不全が老化の出発点?

活力低下や心不全などの臓器不全,糖尿病などの代謝障害といった加齢に伴うさまざまな変化や疾患の基礎には,テロメアの機能不全という分子レベルでの根本原因が存在するという研究結果が発表されました(Nature 2011; 470: 359-365)。

テロメアは染色体末端にあり,DNAを損傷から保護する役割を果たしています。細胞はあらかじめ決められた上限回数まで分裂を繰り返すことができますが,その過程でテロメアは短くなり,染色体末端部のDNA損傷が修復されない割合が高くなります。

こうしてDNAに損傷が蓄積されると,細胞はp53という遺伝子を活性化させて警告を発する。p53は通常の細胞分裂を停止させ,損傷が修復されるまで待つよう命じます。修復が不可能な大きさの損傷の場合には,細胞死(アポトーシス)を命じます。

多くの研究者はこれまで皮膚,腸上皮,血液細胞など細胞分裂の周期が短く,予備の成熟幹細胞によって若返ることのできる組織では,この細胞周期緊急停止と細胞死が老化の原因と考えていました。

しかし,心臓や肝臓の細胞など分裂周期の長い細胞でも老化は同等に起こります。

テロメアの機能不全とp53の活性化が細胞周期停止と細胞死以外にも,細胞と組織に一連の変性を引き起こすことを明らかにした。必ずしも速い分裂と増殖だけが原因ではない老化機序は,これらの変性を介してテロメアと結び付いています。言い換えると,テロメアの機能不全は老化による健康悪化の一因ではなく,最大の原因である。

テロメアの機能不全の役割は,これまで考えられていた以上に広く,機能不全から始まる一連の反応が健康状態の悪化や寿命短縮を引き起こすとしています。例えば筋肉は,細胞内のエネルギー産生器官であるミトコンドリアを損失した結果,活力低下や心臓などの臓器不全を引き起こし,糖尿病などの代謝障害リスクも増大します。また,この過程は加齢やストレスにより蓄積される活性酸素種,いわゆるフリーラジカルから身体を保護する抗酸化機能も低下させる。

こうしたミトコンドリアの減少やフリーラジカルの蓄積が,加齢に伴う疾患の主因であると考えられていました。

テロメアの機能不全がこうした一連の代謝障害・臓器不全を引き起こすのは,p53遺伝子の活性化により,PGC-1αおよびPGC-1βの2つの主要な代謝調節物質の機能が抑制されるためであることを明らかにしました。これらの調節物質が抑制されると,エネルギー供給やストレス耐性に必要な代謝が阻害されることが,p53遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験で明らかになったようです。テロメアの機能不全がp53遺伝子の活性化を介してミトコンドリアの調節因子と抗酸化作用に関係していることを示唆しています。

しかし、そもそもテロメアの機能不全が起こる原因がはっきりしておらず、テロメアの機能不全が老化の出発点であるということはないと考えます。

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