ミネラル含有熱処理酵母に放射線防護効果を確認、被ばく後投与でも。
独立行政法人放射線医学総合研究所の研究チームがマウス実験で実証
独立行政法人 放射線医学総合研究所(佐々木 康人 理事長)放射線安全研究センター・レドックス制御研究グループの伊古田暢夫グループリーダー、安西和紀チームリーダーらは、財団法人体質研究会(鳥塚 莞爾 理事長)の鍵谷勤京都大学名誉教授と共同で、ミネラル含有熱処理酵母に放射線障害を防護する効果があることを、マウスを用いた実験で明らかにしています(平成18年3月24日)。
放射線被ばくによる生体障害を予防および治療するための放射線防護剤として実用化されている薬剤は極めて少なく、それらも、副作用が強いという問題点があります。また殆どの防護剤の場合、放射線を被ばくする前に投与する必要があり、放射線被ばく障害に対し被ばく後に投与して効果が得られる薬剤は極めて限られていました。
今回の報告では、乳酸桿菌の加熱死菌体の放射線防護作用の報告を発端として、さらに有効で入手しやすい放射線防護物質を探索し、ミネラル含有熱処理酵母に、放射線被ばく後においても障害を防護する極めて顕著な効果があることを見出しました。
特に亜鉛酵母および銅酵母は、被ばく後の投与においても最も高い効果を示しました。一連の実験でミネラル含有酵母には放射線防護効果、特に放射線被ばく後に投与して効果があることが明らかとなっています。味噌や腐植触媒そしてミネラル含有酵母が放射線防護効果あることは、抗酸化作用だけでなく、キレート効果、放射線耐性微生物の分解効果があることは今後明らかになっていくでしょう。
実験の詳細はコチラ
→ミネラル含有熱処理酵母の放射線防護効果の確認実験
実験に用いた酵母は、サッカロマイセスセレビジエ属の酵母で、パンやビールの発酵に一般的に用いられている。これらの酵母等は市販されており容易に入手可能である。抗酸化ミネラルは、 亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、およびセレン(Se)などで、亜鉛は約10%、マンガンと銅は5%、セレンは0.2%含有の4種の酵母を用いた。これらのミネラル含有酵母は、サッカロマイセスセレビジエ系ビール酵母を培養する培地に硫酸亜鉛、グルコン酸銅、硫酸マンガン等の金属塩、あるいはセレノメチオニンを添加して作られる。さらに、酵母以外の成分を遠心分離して除去し、加熱乾燥(110℃、3時間)して粉末状で得られる。本実験では市販のミネラル含有熱処理酵母(以下ミネラル含有酵母)が用いられた。これらのミネラル含有酵母はラット経口投与で最小致死量は2.5g/Kg以上と推測されている安全な物質である。
放射線防護作用の確認実験では、雄性C3Hマウス(10週齢、体重:25-28gグラム)に、マウスによる放射線影響実験の致死線量である7.5GyのX線を照射し、同種の実験の典型的な条件となる30日間の生存率が測定された。実験群は、 100-600mg/Kg(体重)の酵母を含んだ0.5%メチルセルロース懸濁液(0.3ml)を照射の前あるいは後に腹腔内に投与した。なお、対照群は、0.3 ml/匹の0.5%メチルセルロース溶液を腹腔に投与した(各群16匹〜56匹のマウスを使用)。
図1、2に示すように、ミネラル含有酵母は高い放射線防護効果を示し た。特に亜鉛酵母および銅酵母は、被ばく後の投与において30日間生存率が80%以上という高い生存率を示した(対照群約7%)。亜鉛酵母は照射60分後 投与においても高い生存率を示し、治療剤としての可能性が期待される。
図1.各種酵母の放射線防護効果(X線7.5Gyマウス全身照射、照射後30日の生存率、n=16-56)
ミネラル含有酵母は高い放射線防護効果を示している
図2. X線7.5Gy マウス全身照射直後、亜鉛含有酵母(100mg/Kg)投与の30日間生存曲線(n=28)
亜鉛酵母は照射60分後投与においても高い生存率を示し、治療剤としての可能性が期待される
活性酸素(スーパーオキシド)の消去能について
酵母とスーパーオキシドとの反応は、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO)を用いる電子スピン共鳴(ESR)-スピントラッピング法を用いて行った。スーパーオキシドはヒポキサンチンとキサンチンオキシダーゼにより発生させた。DMPO-O2- 付加体のピーク強度を半分に減少させる酵母の濃度を求め、各酵母のスーパーオキシド消去能を比較した。その結果(図3)、最も強い消去能を有するのは亜鉛(Zn)酵母で、この亜鉛酵母の消去能を100とすると、マンガン(Mn)含有酵母:47、銅(Cu)酵母:42、セレン(Se)酵母:8、パン酵母:2-10であった。
図3. ミネラル含有酵母のスーパーオキシド消去能の相対比較
亜鉛酵母の消去能を100とする(重量比)
作用のしくみについて
ミネラル含有酵母の放射線防護作用のしくみについては今後の研究課題であるが、推察されることの一つとしては、これらのミネラル含有酵母が放射線によって発生する活性酸素類を消去して生体の損傷を防いでいる可能性が上げられる。
また、ミネラル含有酵母中の亜鉛、銅などは、メタロチオネインやヘムオキシゲナーゼ-1などの抗酸化酵素を誘導する。また酵母に含まれるβ-グルカンは免疫賦活作用があり、これらの作用によって放射線障害を防護しているとも考えられる。
スーパーオキシド消去活性の高い酵母が、30日生存率向上に効果的で、放射線被ばくにより生じる酸化的ストレスの制御に重要な役割を果たしているものと考えられるが、詳しい防御機構は今後明らかにする必要がある。
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