運動は老化に伴う軽度認知障害の予防と改善に有用
運動が軽度認知障害の予防や認知機能改善に役立つとする2件の研究がArchives of Neurology((2010; 67: 71-79)(2010; 67: 80-86))に発表されました。
軽度認知障害とは、加齢・老化に伴う思考能力や学習能力および記憶力の自然な変化と認知症の中間に位置する状態です。認知症を発症する人が一般住民では毎年1〜2%であるのに対して、軽度認知障害者では10〜15%にも及びます。
運動は神経保護化合物の産生、脳血流の増大、ニューロンの発達と生存の改善、心血管疾患リスクの低減などを介して軽度認知障害リスクを低減します。また定期的な運動を行っている人は、 食習慣など健康によい行動を取っていることがアルツハイマー病をはじめとした認知症を低減させていると考えられます。
少し強度の有酸素運動で認知障害が改善されるのであれば、費用もかからず、薬物治療で起こるような有害作用もないため理想的なアンチエイジングといえます。
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→ワシントン大学と退役軍人局ピュージェット湾保健医療システム(ともにワシントン州シアトル)のLaura D. Baker准教授らは、6か月間の高強度有酸素運動プログラムにより、軽度認知障害者の認知機能が改善すると発表しました。
同准教授らは、軽度認知障害の成人33例(男性16例、女性17例、平均年齢70歳)を対象としたランダム化比較試験を実施しました。23例は高強度 有酸素運動群に割り付けられ、トレーナーの監視のもと、高強度の運動を1日45〜60分、週4日行った。10例を対照群とし、トレーナーの監視のもと同じ スケジュールでストレッチ体操を行いましたが、心拍は低い値を維持しました。フィットネステスト、体脂肪の分析、代謝マーカーを調べるための血液検査および認知機 能の測定は、試験開始前、試験中と試験終了の6か月後に実施しました。
計29例が試験を完遂しました。対照群と比べて高強度有酸素運動群では全体的な認知機能の改善が認められました。男女別では健康の改善度は同等でしたが、認知機能の改善効果は女性でより顕著でした。
一方、メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)のYonas E. Geda博士らは、中年期以降に中等度の運動をすることで、軽度認知障害リスクを軽減できると報告しました。
同博士らは、同クリニック加齢研究参加者のうち認知症でない1,324人を対象に、運動に関する質問調査を2006〜08年に実施。専門家によるコンセンサス委員会が質問票の回答を評価し、認知機能正常と軽度認知障害に分類しました。
その結果、198人(年齢中央値83歳)が軽度認知障害、1,126人(同80歳)が正常認知機能と判定されました。早歩き、エアロビクス、ヨガ、筋 力トレーニング、水泳など中等度の運動を中年あるいは中年以降から行っていると回答した人では、軽度認知障害と判定される率が低かった。中年からの中等度 運動は、軽度認知障害リスクを39%低下させました。また、中年期以降からの中等度運動でもリスクを32%低下させました。これらの研究結果は男女いずれでも一致 していました。
しかし、ボーリング、ゆっくりとしたダンス、カートを利用したゴルフといった軽度の運動やジョギング、スキー、ラケットボールのような激しい運動と軽度認知障害リスク低下との間に独立した関連性は認められませんでした。
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