更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）の発ガンリスク

エストロゲンによりリスクが上昇する悪性腫瘍として，これまでに子宮体がん，乳がん，悪性黒色腫，低悪性度子宮内膜間質肉腫，卵巣がんなどが報告されています。 2002年のWomen's Health Initiative（WHI）の中間報告では，更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）により，乳がんに加え冠動脈疾患や脳卒中，血栓症のリスクも上昇することが示されたことで更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）への不安が高まりました。

現在では，冠動脈疾患は60歳未満あるいは閉経後10年未満の健康女性ならばリスクは上昇しないこと，乳がんに関しては5年未満の施行なら安全であるというコンセンサスが得られており，日本の更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）ガイドラインもこれに沿って作成されています。

更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）施行による悪性腫瘍リスクの変化は上昇するものだけではなく，逆に大腸がんのように低下するものや子宮頸がんのように不変のものもあるため，これまでの検討では悪性腫瘍全体で見ると，更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）は罹患率のリスクは増加させず，死亡率はむしろ低下させることが報告されています。

乳がんについては，以前掲載いたしましたが、最近報告されたWHIの研究中止後約10年の追跡調査によると，エストロゲン/黄体ホルモン併用療法ではリスクが有意に上昇していました。

しかし、エストロゲン単独療法ではリスクが有意に低下していました。他の大規模コホート研究（Nurses' Health Study）でも，20年までのエストロゲン単独療法はリスクを有意に上昇させないと報告されており，リスク上昇への比重はエストロゲンよりも黄体ホルモンの方が大きいと考えられています。

経皮エストロゲン剤が乳がんリスクを上昇させないとのデータもある一方，エストロゲンの種類や量の問題もあり，結論は得られていません。また，閉経から初めて更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）を開始するまでの期間別の検討では，骨粗鬆症などとは反対に早期の開始が乳がんリスクを上昇させるというパラドックスの問題が生じています。

近年，黄体ホルモンの代わりに新規選択的エストロゲン受容体調節薬（SERM）をエストロゲンに併用する方法に期待が寄せられているようですが、やはりリスクベネフィットで考えるとこのような更年期障害に対するホルモン補充療法（HRT）はインフルエンザのタミフルと同じく、ベネフィットが小さいと考えます。

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