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子宮摘出女性へのエストロゲン単独療法、脳卒中、静脈血栓塞栓症リスクは介入終了後に消失

閉経後女性を対象にホルモン補充療法(HRT)の効果を検証した米国の大規模ランダム化比較試験(RCT)Women's Health Initiative(WHI)。そのうち、健康女性を対象とした試験は、エストロゲンとプロゲステロン併用群で浸潤性乳がんのリスクの上昇が認められたために2002年に中止されました。

一方、子宮摘出女性を結合型エストロゲン(CEE)とプラセボに割り付けた試験は、平均7.1年追跡の後、脳卒中などのリスク上昇を受け、予定より1年早い2004年2月に中止されました。

米フレッドハッチンソンがん研究センターによって、結合型エストロゲン単独療法試験参加者の健康リスクを約11年間追跡されました。介入終了後、脳卒中や静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク上昇は消失し、全追跡期間を通して冠動脈疾患(CHD)、総死亡などのリスク上昇もなかった一方で、年齢層によりリスク差があることが論文報告されました(JAMA(2011; 305: 1305-1314)

米国の大規模ランダム化比較試験WHI試験の結合型エストロゲン単独療法試験では、1993~98年に米国40施設で登録された50~79歳の子宮摘出女性1万739例がCEE 0.625mg/日とプラセボにランダムに割り付けられました。結合型エストロゲン群における介入中のイベントのハザード比は、冠動脈疾患については0.95(95%CI 0.78~1.15)でしたが、脳卒中1.36(同1.08~1.71)、深部静脈血栓症(DVT)1.47(同1.06~2.05)、肺血栓塞栓症1.37(同0.90~2.07)で上昇し、浸潤性乳がん0.79(同0.61~1.02)、大腿骨近位部骨折0.67(同0.46~0.96)で低下していていました。

さらに同意が得られた7,645例の生存者を2009年まで追跡しました。結合型エストロゲン使用期間の中央値は5.9年、平均追跡期間は10.7年で、介入終了後(2004年3月~09年8月)のエストロゲン使用は結合型エストロゲン群で年間3.6~4.7%、プラセボ群で2.7~3.0%でした。

1次評価項目は冠動脈疾患と浸潤性乳がんとし、その他に脳卒中、肺血栓塞栓症、大腸がん、大腿骨近位部骨折、総死亡を含む慢性疾患グローバルインデックスを調べました。

分析の結果、冠動脈疾患と乳がんの介入後リスク(年率)は介入中とほぼ同様で、結合型エストロゲン群をプラセボ群と比較すると、冠動脈疾患0.64 vs. 0.67%(ハザード比0.97、95%CI 0.75~1.25)、乳がん0.26% vs. 0.34%(同0.75、0.51~1.09)でした。なお、全追跡期間で見ると、乳がんは0.27% vs. 0.35%となり、結合型エストロゲン群で有意に減少していました(同0.77、0.62~0.95)。

脳卒中については0.36% vs. 0.41(同0.89、0.64~1.24)で、介入中に見られた脳卒中の増加はもはや認められませんでした。同様に深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症の増加傾向も消失し、深部静脈血栓症については0.17% vs. 0.27%(同0.63、0.41~0.98)と結合型エストロゲン群でリスクが低かった。

一方、結合型エストロゲン群における大腿骨近位部骨折リスク低下は介入後に消失。0.36% vs. 0.28%(同1.27、0.88~1.82)と、結合型エストロゲン群でわずかにリスクが高かった。

介入後の総死亡は1.47% vs. 1.48%(同1.00、0.84~1.18)でした。

さらに、全追跡期間への結合型エストロゲンの影響を50~59歳、60~60歳、70~79歳の年齢層別に検証したところ、50~59歳では冠動脈疾患、全心筋梗塞が減少し、70~79歳では結腸直腸がん、慢性疾患グローバルインデックスが増加。

年齢が低いグループでアウトカムが良好であった項目の交互作用のP値は、冠動脈疾患0.05、全心筋梗塞0.007、大腸がん0.04、総死亡0.04、慢性疾患グローバルインデックス0.009と、年齢層によりリスクが変動することが示唆されました。

以上のことから、更年期障害に対するホルモン補充療法導入の際は、患者の年齢や子宮摘出術の有無によって異なった説明が必要とされます。今回の研究対象の結合型エストロゲンの使用期間は5.9年であり、長期使用のリスクベネフィットについては不明としています。

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