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閉経後5年以内のホルモン補充療法(HRT)でアルツハイマー型認知症(AD)リスク30%減,5年以降では効果示さず

閉経後女性に対するホルモン補充療法(HRT)をめぐっては,全米規模で行われたWomen’s Health Initiative(WHI)試験の中止問題が物議を醸しました。ルモン補充療法(HRT)は、乳がんや血栓症などのリスク上昇がある一方,骨粗鬆症などのリスク低下もあるなど,議論が絶えません。また,同療法においては,閉経後のどの時期に導入するかが大切とする「タイミング仮説」が提唱されていますが,やはり,リスクとベネフィットが混在しています。

ベネフィットの1つとされる認知症・アルツハイマー病(AD)発症リスクの低下については,ホルモン補充療法(HRT)の導入時期が鍵を握るとする「タイミング仮説」が示唆されています。

今回米国の同一地域在住の女性を追跡し,ホルモン補充療法(HRT)の導入時期などとアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクとの関連について検討ました。その結果,閉経後5年以内では,ホルモン補充療法(HRT)未導入に比べて導入していた女性ではアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクが30%の減少を示していた一方,閉経後5年以降ではホルモン補充療法(HRT)導入の有無によりアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクに差は確認されなかったということが論文報告されました(Neurology 2012年10月24日オンライン版)。

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→1995年1月1日時点で65歳以上の女性を対象に前向き観察研究Cache County Studyを実施した。 適応者のうち,修正Mini-Mental State Examination(MMSE)などで認知症と診断されなかった女性5,677人をベースライン評価対象とした(WaveⅠ)。その後,1998~99年(WaveⅡ)および2005~06年(WaveⅢ)と2回に分けて認知機能検査などを行い,精神疾患の分類と診断の手引き第3版改訂版(DSM-Ⅲ-R)の認知症診断基準を満たした場合,認知症の発症年齢を推定した。WaveⅡとⅢの間には,電話調査により妊娠・出産歴やホルモン補充療法(HRT)の使用の有無などもデータを収集。2006年の追跡終了までデータが収集できた1,768人を解析対象とした。

1,768人のベースライン時の背景をホルモン補充療法(HRT)導入の有無別に見たところ,導入者1,105人,未導入者663人で,順に平均年齢73.4歳,76.7歳,閉経年齢47.3歳,48.2歳,生産児数4.3人,4.5人,ApoEε4アレル保有者771人,448人,アルツハイマー型認知症(AD)の家族歴あり271人,150人,糖尿病発症者134人,87人であった。なお,HRTの薬剤タイプは9割以上が経口剤で,残りは軟膏や貼付による経皮剤であった。なお,HRTの導入が同試験登録(ベースライン)直前3年以内またはそれ以前かでもデータを集計した。

2006年まで最長11(平均7)年にわたり追跡したところ,1,768人中248人が認知症を発症し,うち176人がdefinite(確実な),probable,possibleのいずれかのアルツハイマー型認知症(AD)と診断された。これらアルツハイマー型認知症(AD)と診断された女性は,ベースライン時の平均年齢78.1歳(未診断者の平均年齢74.2歳),ApoEε4アレル保有者の割合46.9%(未診断者の同保有者割合28.8%),糖尿病発症者の割合20.5%(未診断者の同発症者割合11.6%)と,いずれもアルツハイマー型認知症(AD)未発症者に比べて有意に高いことが分かった(いずれもP<0.001)。

ホルモン補充療法(HRT)の導入の有無とアルツハイマー型認知症(AD)発症との関連について検討するため,ホルモン補充療法(HRT)未導入と比べた導入におけるアルツハイマー型認知症(AD)発症のハザード比(HR)を求めた。その結果,ベースライン時の年齢やApoE遺伝子型などで補正したHRは0.80(95%CI 0.58~1.09)と,ホルモン補充療法(HRT)導入によりアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクは20%の低下が認められたが,有意差は確認されなかった。

しかし,ホルモン補充療法(HRT)導入の時期別にHRを検討したところ,ホルモン補充療法(HRT)導入が閉経後5年以内で0.70(95%CI 0.49~0.99)と,ホルモン補充療法(HRT)未導入と比べてアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクは有意に30%の低下が示された。一方,ホルモン補充療法(HRT)導入が閉経後5年以降ではHRは1.03(同0.68~1.55)と,アルツハイマー型認知症(AD)発症に対するベネフィットは認められなかった。

また,ホルモン補充療法(HRT)導入の期間別にもアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクのHRを検討した。その結果,閉経後5年以内のホルモン補充療法(HRT)導入におけるアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクの補正後HRは,導入期間10年未満で0.71(95%CI 0.31~1.65),導入期間10年以上で0.63(同0.41~0.98)と,導入期間が10年以上では有意なリスクの低下が確認された。

さらに,ホルモン補充療法(HRT)の種類別(エストロゲン単独 vs. エストロゲン+黄体ホルモン併用)でも検討したところ,アルツハイマー型認知症(AD)発症リスクの補正後HRは,導入時期が閉経後5年以内(順に0.65 vs. 0.65)およびベースラインの3年以上前(順に0.80 vs. 1.03)ではホルモン補充療法(HRT)の種類によるアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクに大差は認められなかったが,ベースライン前の3年以内ではエストロゲン単独は1.02(95%CI 0.41~2.54),エストロゲン+黄体ホルモンは1.93(同0.94~3.96)と,有意差は認められなかったものの併用ではアルツハイマー型認知症(AD)発症リスクは約2倍に達していた。



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